Q:
趣味でクラシック系のピアノ曲を弾いてる人に17世紀フランスのクラヴサン音楽、シャンボニエールやルイ・クープランやダングルベールを紹介しても興味を示さないものなのか。
趣味でクラシック系のピアノ曲を弾いてる人に17世紀フランスのクラヴサン音楽、シャンボニエールやルイ・クープランやダングルベールを紹介しても興味を示さないものなのか。
A:
クラシック系のピアノを趣味で弾いている人の多くにとって、17世紀フランスのクラヴサン音楽は非常に魅力が伝わりにくいジャンルのひとつです。相手がクラシック音楽全般に理解があったとしても、全く響かないか、戸惑われるケースが大半を占めます。
関心を持たれにくい主な要因は、ピアノ愛好家が親しんでいる美意識や演奏規範と、17世紀クラヴサン音楽の語法が根本から異なっている点にあります。
- ピアノの「快楽原則」との乖離ピアノ愛好家の多くは、ロマン派や古典派、あるいはドビュッシーなどの近現代を好みます。これらは「豊かなサステイン(ペダル)」「広いダイナミクス」「歌い上げる旋律」を前提とした音楽です。一方、減衰音の綾やスティル・ブリゼ(分散書法)の隙間を味わう17世紀の書法は、現代ピアノで鳴らすと「旋律がはっきりしない」「音の隙間がスカスカに感じる」と受け取られがちです。
- 「バロック音楽=バッハ」という刷り込みピアノ学習者にとってのバロック体験は、インヴェンションや平均律などのJ.S.バッハが中心です。そのため、推進力のある通奏低音や整然とした対位法の構築美を期待して聴くと、シャンボニエールやルイ・クープランの持つ「拍感の曖昧さ」「気まぐれな優美さ」「舞曲のステップ感」が捉えどころなく聴こえてしまいます。
- 「弾いて楽しむ」ための敷居の高さピアノ弾きは「気に入ったら楽譜を買って弾いてみる」ことで曲への愛着を深めます。しかし、この時代の作品は以下のような演奏上のハードルがあります。
- プレリュード・ノン・ムジュレ(無小節線の前奏曲)のように、楽譜の見た目から弾き方が想像できない。
- 膨大なアグレマン(装飾音記号)や不均等奏法(イネガル)のルールを知らないと音楽が成立しない。
- 現代ピアノで弾くと装飾が重く濁り、軽妙さが出ない。
- 音色と調律の必然性ルイ・クープランの尖った不協和音や半音階の美しさは、中全音律(ミーントーン)などの古典調律と、撥弦楽器特有の立ち上がりの鋭い倍音によって生きます。現代ピアノの平均律で弾くと、響きの緊張と緩和のコントラストが平坦になり、魅力が大きく損なわれてしまいます。
もし興味を持ってもらうきっかけを作るなら、音楽史的な説明よりも、ラヴェルの『クープランの墓』やドビュッシーの諸作品が「彼らの様式をどう受け継ぎ、近代ピアノに昇華させたか」というフランス近代からの逆算で提示したり、まずはチェンバロによる優れた録音で、響きそのものの快楽(アンビエントな浮遊感や独特の鋭い和声)を聴いてもらうのが近道です。
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